長野にて~平和を考える2つの美術館~
長野にある2つの美術館。
この二つの美術館の共通項、それは…。
戦争の経験を通じて、平和を考えるきっかけを作る美術館
であるということです。
前者の施設は、絵本作家であるいわさきちひろの生涯と作品、そしてそれに関連した絵本作品の展示を行なっている美術館で、
後者の施設は、戦地に赴いたまま戻ることのなかった美術学生や絵を描くことが好きだった若者の作品たちを集めて展示している美術館です。
まず、ちひろ美術館について。
ちひろ美術館は絵本作家であった、いわさきちひろさんの一生や作品、ほかの絵本作家の特別展、そしてちひろさんの挿絵で有名なトットちゃんが通ったという「トモエ学園」の校舎だった電車の展示があったりする施設になります*1。
この美術館には前述のとおり、ちひろの作品ももちろんちひろの生涯についても展示されていて、戦時に女子大学義勇団として満州へ行ったこと、東京空襲で長野県に疎開したこと、戦後には共産党の演説を通じて「二度と戦争を起こしてはならない」という想いに目覚めたことなどが書かれていました。
その後、共産党新聞「人民新聞」の編集部で仕事をしていたちひろでしたが、1952年からは絵本作家として活動を始めます。
その中には
「文で表現されたのと、まったくちがう面からの独立したひとつのたいせつな芸術」
という信念を持っていたと言われています。
平和への想いと絵本芸術への信念…。
それがちひろのあの、柔らかで優しい絵につながっているのだと感じました。
次いで、無言館について。
この無言館は二つの施設に分かれています。
一つは建物のそばに「記憶のパレット」と呼ばれるモニュメントがある第一展示場。
もう一つは「傷ついた画布のドーム」と称される第二展示場です。
二つに分かれているとはいえ、どちらも戦場に動員されたことで、自分が好きだった美術・絵画を続けられず、命を散らせてしまった若者たちの絵画を展示しているというのは共通しています。
しかも、「傷ついた画布のドーム」では、この名称通り天井に若者たちが描いたキャンバスが天井に展示されていて、ほぼ全空間で絵画を見ることができるようになっています。(写真で見せられないのが残念…)
この無言館は全国各地にあるような美術館とは違い、いうなれば無銘の若者たちの作品が展示されていますが、肝になるのは
「犠牲になった学生の描いた作品を、遺族の方々が意志を持って遺してきた作品」
だということです。
戦争によって失われた息子の描いた絵画となれば、遺族からすれば戦争を思い出すものであるがゆえにどんな扱いをしても仕方がない、それこそつらいからと廃棄しかねないものになりかねません。
しかし、それを大切に保管し、無言館で展示するに至るというのは、遺族たちが「これは絶対に残したい」という強い意志を持っていなければ成り立ちません。
そのつらさや悲しさ、苦しさなどを経験した遺族たちの意思と、戦場で絵を描くことを断念して命を散らす若者たち…想像を絶すると思います。
ところで、ちひろ美術館と無言館を見学した直後、自分は長野を去ることになるですが、この「自分のやりたいことをできずに犠牲になった人たち」をまた考えさせられることになろうとは、当時知る由もありませんでした…。